2018年07月03日
大切なのは血の絆かカネの絆か?~映画に見る社会『万引き家族』
カンヌ映画祭の最高賞パルムドールを受賞し、一躍話題となった『万引き家族』。
監督の是枝裕和氏はこれまでも『誰も知らない』『そして父になる』など、現代の日本が抱えるさまざまな社会問題を家族という切り口から描いてきました。
新作で監督はどのような家族像を描いているのでしょうか。
現在公開中でこれから観るのを楽しみにしている方も多いと思いますので、後半多少ネタバレがあることをお断りしておきます。
映画はリリー・フランキー演じる父親とその息子がスーパーで万引きをはたらいたあと、道ばたで見かけた幼い少女をまるで捨て猫でも拾う感覚で自宅へ連れてくるところから始まります。
少女が連れてこられたのは都会の繁栄から取り残されたような古い一軒家。祖母や娘たちが肌を接するように過ごし、暖房も満足でないのか、外にいるのと変わらない厚着姿です。
この家で新たに加わった少女と家族の計6人での暮らしが始まります。
プライバシーも満足に保証されない狭い家の中、一家は折り重なるように寝起きしています。ひとつのコタツをみなで囲み、座りきれなかった少年は押入れの中を自分の部屋のように使っています。
カメラは一人ひとりの表情にクローズアップで迫り、役者もほとんどノーメイクで自分の素顔をさらけだします。皮膚感覚を強調するような映像は、人と人の距離の近さをもう一度取り戻そうという監督のメッセージなのでしょうか。
祖母の年金、建設業に従事する父親、風俗やクリーニング工場で働く娘たち、そして万引き……。
弱者が寄り集まって、それぞれのやり方で得た金やモノを持ち寄り、シェアしあってどうにか暮らしている姿が淡々と、ユーモアをまじえて描かれます。
映画の中に『スイミー』という絵本が出てきます。アメリカの絵本作家レオ・レオニの作品で、小さな魚たちが集まって力を合わせ、大きな魚を撃退する物語は、まさにこの映画のテーマにも通じているでしょう。
ハートウォーミングな空気に満ちたこの作品は、カンヌでの好評を受け、国内でも手ばなしの称賛で迎えられるでしょう。人生の厳しい局面にある人々が、貧しさのどん底にありながら、たくましく明るいリリーたちの一家に勇気づけられるかもしれません。
でも、はたしてこの家族の明るさをそのまま肯定していいのでしょうか。犯罪に手を染めるのがよくないことはもちろんですが、こういった生活に安住してしまうことにも疑問を感じるのです。
ここから多少ネタをバラします。
万引き家族たちの明るさは、もしかしたら自分たちの本当の貧しさを直視していないからではないでしょうか。
彼らには現状に不満を持ち、少しでも変えていこう、良くしていこうという努力が決定的に欠けています。
先のことを考えていないので、突然の出来事にも場当たり的に対応するしかありません。偽りの家族関係は祖母の死や息子の逮捕をきっかけに一転して破綻に向かいます。
彼らは結局、金だけでつながっていたのでしょうか。少年に問い詰められた父親はそれを否定しようとしません。しかし少年もそれを受け入れ、絶望しない。それが本当に自立した個人のありかたなのでしょう。監督のスタンスがここに表明されている気がします。
これまで家族をテーマに映画を撮り続けてきた是枝監督は、実は、家族の絆など信じていないのかもしれません。血縁という絆にすがり続けることの危うさを冷静に見つめ、個人としての自立をうながしているように感じます。
偽の家族が解体した一方で、少女は本当の家族のもとに戻りますが、その前途はけして明るいといえそうにありません。映画の幕切れは不穏なものが漂います。作品の公開と前後して現実に起きた児童虐待事件を連想せずにはいられません。
『万引き家族』は深刻な社会問題を題材にしながら、上質なファンタジーに仕上がっていると思います。海外で高く評価されたのも、そのファンタジー性ではないでしょうか。ただし心あたたまる幻想に逃避せず、僕たちは現実を直視し続けるべきでしょう。
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映画に見る社会『万引き家族』 話題の映画から現代社会をウォッチング by 塩こーじ(s.k.)
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監督の是枝裕和氏はこれまでも『誰も知らない』『そして父になる』など、現代の日本が抱えるさまざまな社会問題を家族という切り口から描いてきました。
新作で監督はどのような家族像を描いているのでしょうか。
現在公開中でこれから観るのを楽しみにしている方も多いと思いますので、後半多少ネタバレがあることをお断りしておきます。
映画はリリー・フランキー演じる父親とその息子がスーパーで万引きをはたらいたあと、道ばたで見かけた幼い少女をまるで捨て猫でも拾う感覚で自宅へ連れてくるところから始まります。
少女が連れてこられたのは都会の繁栄から取り残されたような古い一軒家。祖母や娘たちが肌を接するように過ごし、暖房も満足でないのか、外にいるのと変わらない厚着姿です。
この家で新たに加わった少女と家族の計6人での暮らしが始まります。
プライバシーも満足に保証されない狭い家の中、一家は折り重なるように寝起きしています。ひとつのコタツをみなで囲み、座りきれなかった少年は押入れの中を自分の部屋のように使っています。
カメラは一人ひとりの表情にクローズアップで迫り、役者もほとんどノーメイクで自分の素顔をさらけだします。皮膚感覚を強調するような映像は、人と人の距離の近さをもう一度取り戻そうという監督のメッセージなのでしょうか。
祖母の年金、建設業に従事する父親、風俗やクリーニング工場で働く娘たち、そして万引き……。
弱者が寄り集まって、それぞれのやり方で得た金やモノを持ち寄り、シェアしあってどうにか暮らしている姿が淡々と、ユーモアをまじえて描かれます。
映画の中に『スイミー』という絵本が出てきます。アメリカの絵本作家レオ・レオニの作品で、小さな魚たちが集まって力を合わせ、大きな魚を撃退する物語は、まさにこの映画のテーマにも通じているでしょう。
ハートウォーミングな空気に満ちたこの作品は、カンヌでの好評を受け、国内でも手ばなしの称賛で迎えられるでしょう。人生の厳しい局面にある人々が、貧しさのどん底にありながら、たくましく明るいリリーたちの一家に勇気づけられるかもしれません。
でも、はたしてこの家族の明るさをそのまま肯定していいのでしょうか。犯罪に手を染めるのがよくないことはもちろんですが、こういった生活に安住してしまうことにも疑問を感じるのです。
ここから多少ネタをバラします。
万引き家族たちの明るさは、もしかしたら自分たちの本当の貧しさを直視していないからではないでしょうか。
彼らには現状に不満を持ち、少しでも変えていこう、良くしていこうという努力が決定的に欠けています。
先のことを考えていないので、突然の出来事にも場当たり的に対応するしかありません。偽りの家族関係は祖母の死や息子の逮捕をきっかけに一転して破綻に向かいます。
彼らは結局、金だけでつながっていたのでしょうか。少年に問い詰められた父親はそれを否定しようとしません。しかし少年もそれを受け入れ、絶望しない。それが本当に自立した個人のありかたなのでしょう。監督のスタンスがここに表明されている気がします。
これまで家族をテーマに映画を撮り続けてきた是枝監督は、実は、家族の絆など信じていないのかもしれません。血縁という絆にすがり続けることの危うさを冷静に見つめ、個人としての自立をうながしているように感じます。
偽の家族が解体した一方で、少女は本当の家族のもとに戻りますが、その前途はけして明るいといえそうにありません。映画の幕切れは不穏なものが漂います。作品の公開と前後して現実に起きた児童虐待事件を連想せずにはいられません。
『万引き家族』は深刻な社会問題を題材にしながら、上質なファンタジーに仕上がっていると思います。海外で高く評価されたのも、そのファンタジー性ではないでしょうか。ただし心あたたまる幻想に逃避せず、僕たちは現実を直視し続けるべきでしょう。
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Posted by cari.jp at 12:32